有事が起こった時に何が必要か

35歳を明日に迎え、

34歳ラストの1日はなんとなくムズムズとした、落ち着かない日だった。

何かが起きそうな予感というか、悪寒というか。

でも外は猛烈に暑い。

今日は渋谷の宮益坂の頂上にてっぺんに位置する業者さんと契約内容のミーティング。電話、メールでのやりとりはしていたものの、顔を合わせるのは初だった。

18時00分のアポ。

うちの事務所からは近いが、別件の荷物もあり、車で行く事に。

少し早めに出発。

オフィスから出た時から靴紐がほどけていたのが気になったものの、駐車場確保の問題もあり、〝靴紐は後でね〟という感じで目的地へ。

アクセルとブレーキを踏む時に靴紐がほどけている事が少々気になったものの、なんなく目的地近辺へ。

ちょうど目の前にコインパーキングがあり、バックオーライ、1発で停車。

35歳を目前すると、ここら辺のテクニックは申し分ない。

17時50分

ニヤリ。

靴紐を結ぶ時間があるな。

颯爽と車から降り、ドアを閉め、靴紐に手をかけようとしゃがんだ。

この一連の動作、なんとなくリズムがある。

はい、停車。

エンジンオフ。

ドアを開ける。

外へ出る。

ドアを閉める。

そして、靴紐。。。

リズミカルな感じだね。

こんなにリズミカルなものだから、しゃがむのも軽やかだ。

と、その瞬間。

『バリ!』

一瞬わからなかった。。。なんて事はない、

一瞬にしてわかった。

スーツのお尻が完全に裂けた。

どちらかと言うと裂けというより、お尻が外に飛び出たという表現が正しい。

完全にビックリだ。

というより、行き交う全員に報告したいくらいだ。

恐る恐る、お尻を触る。

さっきまでのリズミカルな動きはもはやできない。

全てがスローモーションになる。

ダメだ。

完全にお尻が出ている。

ここで我に返る。

17時51分。

本気で不味い。

『有事』である。

近年稀にみる、非常事態である。

我が34年間の集大成がこれでは不味い。

色々と考えた。

・・・ごまかせないか。

 常に正面だけ向いていればバレないか?

 スーツの上着で隠せないか?

・・・再度触ってみた。

完全に真っ二つになっている。

そして寄りによって、今日は原色系のパンツを履いてきた事を思い出す。

黒のパンツでない事を悔やんでいる場合ではない。

17時52分

こういう時にあまりパニックにならない習性がある。

そうだ、スーツを買おう!

天下の宮益坂。

スーツ屋さんくらいあるであろう。

カバンをお尻にあてて、ちょっと少女っぽく通りへ出る。

左をチェックし、

右をチェックした。

右をチェックしたーーーーー

あった!

10歩先に神が見えた。

紳士服の青木が目に飛び込んだ。

17時53分

34歳最終日、ここからが本当の勝負だ。

続く。


小話2 老人を助けられなかった話し

小話①はこちら

小さい時、家族旅行でギリシャに行ったことがある。

今でも覚えているけどギリシャの海は透き通るような緑だった。

私は何歳だ?・・・多分8歳とかだと思う。

8歳の少年は砂浜で体をヒリヒリにさせてた。

今でも海に行くとわかっているのに火傷するまで日焼けをしたくなる。8歳の頃と変わらない習性。

夕方になると海の先の夕日がオレンジに見える。

すさまじくデカい。

燃えているようなオレンジ。

悲しげでもあり、不思議と美味しそうな・・・そんな色。

そんな夕方に、砂浜に見える人影も減ってきた頃に事件はおきた。

なぜか、私の頭の中で、この時の事件を見ていたのは自分一人だ。

きっと、絶対、近くに両親か姉がいたはずだけど、この事件は私の中だけで完結している。

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海の方を見ている少年。

静かな波音の中一人の老人が海の中に座った。

ゆっくり『つかった』という感じ。

お風呂にでも入るような。

その老人はしばらくジッ『つかって』いた、しばらく特段の変化もなかったので少年はまたその先に見える大きなオレンジを見ていた。

目を離した次の瞬間、老人の回りに水しぶきがバシャバシャと現れた。

あまりにも唐突な出来事で、状況が掴めない少年。

老人は何処に!!??

よく見ると・・・

 見えた光景に少年は心臓をバクバクさせた。

お風呂につかってる姿勢だった老人は完全に海の中に潜ってしまい、手足をバタバタさせていた。

バシャバシャバシャ!  バシャバシャバシャ!

ドンドン心臓の鼓動が早くなっていく。

バシャバシャバシャ!

・・・溺れている・・・    

この時少年は幼いながらも、『助けなくては!』という強い意志が生まれた。

・・・溺れている  という 老人のピンチを察する思い

  ・・・と、 でもあんな浅瀬で・・・  という疑心暗鬼な思い

今この光景を見ているのは自分しかいない・・・

  『助けなくては!』

   ・・・でもあんな浅瀬で   

こんな心の葛藤がありながら、体はなかなか動かない。

   バシャバシャバシャ!   

 バシャバシャ  ・・・ピタ!

急にバシャバシャが止まった。

  少年の心臓は尚いっそうバクバクする。

   ・・・でもあんな浅瀬で  ・・・溺れている  ・・・でもあんな浅瀬で  ・・・

体は不思議なもので、『もう終わりだ!!!』と思うと自然に動く。

少年は『今、オレしかいない』と思い、ヒリヒリの体を起こして、立ち上がった。

 すると最後の力を使い切ったと思われた老人が 『スク』っと 立ち上がった。

 立ち上がったというか 風呂からあがった・・・様な一作業終わった達成感を感じさせる立ち上がりかただった。

少年は今でも、なぜあの老人が1分近くもバシャバシャやっていたのかはわからない。

 

 もしかしたら少年を試していたのか??

 

 もしかしたら新しい健康運動だったのか??

 

 もしかしたら本当に溺れていたのか??

少年はこの出来事以降、何か目の前で『異変』や『困っている人』がいたらすぐに動いてあげようと思うようになった。

それから25年たった先日、

深夜六本木の路地裏にいた。

車で赤坂の物件の下見が目的。

路地裏から外苑東通りに出ようとする信号待ちの2台目が私の車。

外苑東通りは空車のタクシーで長蛇の列。

信号が変わっても前に進まない・・・そんな時に若いサラリーマン二人が外苑東通りから路地裏に向かって走って曲がってきた。

急なカーブを曲がったため、転びそうになりながら猛ダッシュ。

顔を見たら微妙にニヤつきながら、私の車の前を横切り後方に走り過ぎた。

その二人に遅れること数秒・・・

70歳は超えている老人が同じように路地裏に曲り込んできた。

あきらかに追っかけている。

腹巻きをして、茶色のニット帽をかぶり、メガネをかけた・・・ヨボヨボの老人。

普段見かけたら絶対に走りだしそうもない老人。

そんな痩せこけた老人が、体をガクガクさせながら、必死の形相で追いかけていた。

時間帯から、『無銭飲食』と思われる。

もしかしたら深夜営業している酒屋での『万引き』かもしれない。

いずれにしても、その老人の追いかける『様』に 〝今を真剣に生きる人間の力〟を感じた。

無性にイラダちがこみ上げる。

あの老人にこんな思いをさせるなんて・・・

絶対に追いつかない。

追いついても振り切られるだろう。

・・・そこで私は・・・

私はあの場面で、車を降りて、ニヤけながら走りすぎるサラリーマン二人を追いかけるべきだった。

でも相当な葛藤の中・・・本当に相当な葛藤の中、 車から降りるのをやめた。

理由はいくつもある。

私の車の後ろには既に後続車両が貯まっていて、ここで車両を放棄したら迷惑になる。

 でもこれは対した理由ではない。

でも理由はもっと別なところにあった。

自分の行動(老人を助けなかった行動)が正しかったのかどうかはもう少し先にならないと分からない。

ギリシャの海で体験した事と今回味わった体験をダブらせてしまう。

8歳の少年は、〝その時〟 『今後困っている人がいたらまっさきに助けてあげよう』と思った。

今まで、それに近い行動パターンをとってきた。

でも今回は、葛藤に末断念した。

次の日も次の日も・・・今日も、その老人の追いかける形相が忘れられない。

心情としては、助けたかった。

でも、私は

  『老人よ、オレもオレで必死だよ』

  『助けたいけどオレにとって今大事な事ってそのサラリーマン二人を捕まえることじゃないだ』

  『いつかデカい男になったらもっとみんなを幸せにするからゴメンよ』

  『今はお互い必死に生きよう』

レイプされている少女だったら絶対助け出した。

溺れている老人なら見捨てなかった。

今回の話しはギリシャの『思い』とは違うんだ・・・と自分に言い聞かせる。本質が違った。

 小話ファンのあなた・・・前回とは違うテーストで(笑)

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小話①はこちら


小話1 少年よ! よくみておけ!

今日は大宮で契約があり、電車に乗った。
ガソリンが高いから電車に乗ると、正確な時間と低コストを得られるからなんだか嬉しい。
大宮のひと駅前になり、ボタンを2つ開けてたシャツを締め、鞄からネクタイを出し、ビジネスモードに…


ここでふと前をみると1人の少年が私の姿をジーっと見てる。
ネクタイを首にかけて、これから巻きはじめるところで目が合った。

こちらからニコってしたけど表情は変わらず。

少年はネクタイに興味があるようだ。




ならば、大勝負のはじまりだ。
人生の男の先輩として、ここは一発でネクタイを決めたい… 


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ミスは許されない。

少年の夢は壊したくない…

手際よく…、しなやかに…、大胆に…、かつ、さりげなく…  ネクタイを決めないと・・・



どうやら少年は、ネクタイが仕上がるまでじっくり見届けるようだ。
オレも覚悟を決める。
このネクタイの横幅、長さ、生地の厚み…、過去の感覚…
すべての神経を集中させて首から垂れ下がる左右の長さを慎重に調整する。
これで間違いないのか……再度左右の長さをズラす、シュシュ シュシュ 手際よく整える。
このネクタイはこの長さだ…間違いない…
短距離走のスタート前に似た張り詰めたような静けさ
覚悟はできた。
少年よ! よく見ておけ!
シュルシュル シュルシュル  サッサツ サッー
決まった!
長い方と短い方の絶妙なバランス。
ノットの適度な具合。
首を絞めつけない程度のほどよいゆとり。
完璧だ。
見上げるか迷ったが、少年の方を見ると、脱力した、安堵の表情で、僅かながらに微笑んでくれたように見えた。
私は軽くうなずいた。
少年は少し誇らしげに隣に座ってるお母さんを見てた。
少年、Thank you!
今日もオレ頑張れるぜ!
ちょうど大宮だ。


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